仙台高等裁判所 昭和29年(う)63号 判決
しかし、原判決が原判示第二の事実につき挙示する証拠を綜合すれば、右事実殊に被告人西間木が被告人飛田の命により、同被告人等において業務上保管中の製造たばこを、ほしいままに料理店千鳥こと小見喜五に対し、同被告人等の飲食代金債務の支払に代えて譲渡した事実は優に認定しうるところである。A・B両弁護人は原判決援用の証人辺見公子、同四間木馨の原審公廷における各供述記載及び同人等の各供述調書記載の供述中被告人西間木が被告人飛田の命により小見にたばこを渡したとの供述部分は虚偽であるとし、その理由として原判決第二表4の昭和二十四年二月十日頃の事実に関し、同日被告人飛田は出張不在中であつたと主張する。成程所論の引用する昭和二十四年一、二月分出張命令簿(証第三十五号)によれば、同被告人が同年二月十日出発同月十一日帰庁の日程を以て福島県信夫郡大居村に出張したことは認めうるが、二月十日にその出発前登庁しなかつたという証拠はなく、かつ原判決は二月十日という確定日ではなく、二月十日頃という不確定日の犯罪事実を認定したものであることは原判文に徴し明瞭であるから、右出張命令簿の記載は辺見、西間木等の供述が虚偽であることの証左とはならないし、その他所論の引用する証拠はいずれも同人等の供述の信憑性のないものであること、従つて原判決の認定に誤あることを窺うべき資料となるものではない。つぎに、角田弁護人は、被告人西間木が小見に対し業務上保管にかかる製造たばこを飲食代金の支払に代えて譲渡したのは、専ら上司である被告人飛田の指揮命令に基くものであつて、被告人西間木には罪を犯す意がなかつたし又被告人飛田と共謀した事実もないと主張するので、以下この点につき検討する。すべて国家公務員(以下公務員と称する)は、その職務を遂行するについては上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないが、上司の違法な命令にもつねに必ず盲従すべき義務あるものでないことは、公共の利益のために国民全体に奉仕すべき公務員の国家公共的な性格に照し当然の事理であるといわねばならない。すなわち公務員は上司の命令が上司の権限の範囲内において発せられたものであつて、その命ぜられた事項が自己の職務の範囲内に属しかつ自己の職務上の独立に関しないものであること、適法な手続により発せられたものであること等の要件を備えているかどうかを考慮し、その命令がこれらの要件を備えている場合にはこれに従わなければならないが、これ等の要件が明らかに欠けている場合においては、これに従わないことが出来る。否寧ろ之を拒否すべきものと解するのを相当とする。而して何人といえども犯罪行為をなす権限を有するものではなく、又いかなる上司といえども下僚に対し犯罪行為をなすべきことを命ずる権限あるものではないから、公務員は、上司により命ぜられた事項が明らかに犯罪行為をなすことにある場合には、該命令を拒否することを要し、もしその命に従い右事項が罪となるべき事実に該当することを認識しながら敢えてこれを行うにおいては、上司と共に右犯行につき共同正犯の責を免れることはできないし、もとより罪を犯す意がないとなすことはできない。本件において、被告人西間木が被告人飛田より同被告人等において業務上保管する業務用製造たばこをほしいままに同被告人等の飲食代金の支払に代えて他に譲渡すべきことを命ぜられ、その趣旨を諒してこれを処分したものであることはさきに説示したとおりであるから、被告人西間木は被告人飛田と共に右業務上横領の犯行につき共同正犯としての罪責を負わなければならないことは勿論である。されば原判決が被告人飛田、同西間木の本件所為を業務上横領の共同正犯に間擬したのはまことに正当であつて、記録を具さに調査するも原判決の事実認定及び法令の適用に過誤あることを窺うべき事由は毫も存しない。所論は独自の見解に基く主張であつて採用し難い。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 檀崎喜作 裁判官 有路不二男)